プロローグ
ドアを開けても、誰もいない。
声も聞こえない。
――私は独りぼっちだ。
それでも、私には旦那が残した種があった。
一生懸命に作った花壇へ、その種を植え、世話をした。
やがて芽は出て、蕾もついた。
けれどなぜだろう、いつも花が咲く前に散ってしまう。
思わず口にしてしまう。
「どうして咲かないの?」
その時だった。
風に揺れる蕾が、かすかに訴えているように見えた。
――咲きたいよ。
花は今にも散りそうになりながら
助けてくれる誰かに届きますように・・・と
「たすけて」と
誰にも聞こえないその声で
どこかの誰かが来るのを待っていた
ただひたすらに
咲く事を願って
第一章 閉じこもる想い
「今日も今日とて土を掘るっ♪」
そう呟きながら穴を掘っていくモグラのクロ
自慢の爪はキレッキレでピカピカ、土の中で出会うモグラに自慢の爪を披露する
そんな毎日が続いていた。ただモグラは集団行動はしない。
ってか、俺が群れるの嫌いなんでね?一人でひたすら穴を掘る
今はそんな毎日だった。
ある日
穴を掘っていたら長老に出くわした(ちっめんどくせー)
そう思ってた、長老はまた空想を言ってくる
「クロ?土の中には命の欠片ってもんが集められた小瓶があったりするんじゃ」
「どうしても小瓶に命を集められ、どうしても咲くことが出来ない花達がいたりする」
「そんな時は小瓶を割ってやるんじゃ・・・えいやっ!とな」
そんな空想を誰が信じるってんだよ?だから俺は言ってやった
「そんなの簡単に割れるぜ?俺の爪なら一発だ!・・・ま、そんな小瓶があたらだけどな」
長老はふわりと笑った「そのうち分かるさ」そして、長老はそう呟いたんだ
それから数日後も俺は楽しく穴を掘っていた・・・その時、何故か声が聞こえた気がした。
「たすけて」そんなもの悲しそうな声が・・・
たすけて?なんじゃそら?でも
何故か気になったから声のする方へ向かって穴を掘っていってみた
そしたら、小瓶に当たって
よくみると光る金色の粉が小瓶の中で舞っていた
その粉達が小瓶の中でくるくると回りながら「たすけて・・・たすけて・・・」
そう言ってる
「これ長老が言ってたやつ?」「マジで???」
しゃーねーなぁ・・・ったく、めんどくせー!と言いながら爪で小瓶をついた
が、割れなかった
噛んでも突っついても投げても割れなかった
「どないせーっての?」
俺は茫然とした
ま、ほっときゃいいか
「じゃぁなっ」と小瓶を捨ててまた穴掘りにその場所から出て行った
だけど・・・
掘り進むごとに、前に進むごとに、小瓶と離れるごとに・・・
声が聞こえる
いや聞こえるんじゃない、俺の心に小瓶の中の粉達の、もの悲しく「たすけて」という声が
心に残ったまま大きくなっていってる事に気が付いた。
その声はどんどん大きくなって・・・ついに
「うるせーっての!」と俺は小瓶の元に引き返してしまった
でも・・・どうしたら良いんだ?
この小瓶・・・
第二章 誰かを助ける意味
小瓶にまた爪を突っついてみる
びくともしない、これは一筋縄ではいかない
モグラってのは仲間というものが居ない(てか俺に友人や仲間はいない)
助けを呼ぶ事も出来ない
さて、どうしよう?
強く爪で小瓶を叩く、それでも割れない
ガン!ガン!ガン!・・・いてぇ・・・
人差し指と中指の爪が折れた、でもびくともしない
ガン!ガン!ガン!
どんどんと爪が折れていった、痛いって思いながら叩いて数時間後
その時に小瓶にヒビがある事に気がついた
もしかすると、もう少しで割れる?・・・でも
俺の片方の手の爪はほぼ割れて無くなっていた。
その時、俺の心に少し黒い何かが囁いていた。
これ以上爪を割るともしかすると、穴は掘れなくなるかもしれない・・・
片方の爪は残ってる、もうほっとけば?そんな事を言う俺がいる
その時に違うモグラが自分の元に来た
俺は(助かった)そう思った。
けど、
小瓶を隠してしまった。
その場所で出会ったそいつはシロだった、シロは友達だったけど
以前他の動物たちにいじめられていて
だけど俺は横目で見るだけで俺まで巻き添えにならないように
その場を通り過ぎていったんだ・・・
シロは俺を見て「どうした?」と言った、俺は「いや・・・なんでもない」
そして怪訝な顔をして「手・・・血出てないか?」そう言われた。けど
「ちょっと岩にぶつかってな」と誤魔化した。
俺は「ちょっと助けてくれないか?」本当はそんな事を言いたかったけど
言えなかった、
あの時いじめた動物たちから助けなかった俺が
何故シロに助けてって言える?
無理だ
だから「こんな血出ても全然痛くないし、大丈夫だから先に行けよ!ほら!」と先へと促した
シロが行った後
都合のいい時だけ助けてもらおうなんて友達じゃねーよな・・・っと呟いた
きっと今、あの時の自分が目の前にいたら、ぶん殴ってると思う
ただ、昔俺はどこかの誰かも分からないモグラを助けた事もあった・・・けど
「ありがとう」も言われず去られた事があったから
あの時シロを助けなかったんだよな
シロを助けなかった事は心のどこかで引っかかってた
でも、助けてを言えない・・・この気持ちは
因果応報なのか自業自得ってやつなのか・・・そう呟くと
小瓶をそっと出して
よく見たらかなりひび割れて
だけど、光の粒まで届きそうで届かない
そんな気がした
小瓶の中で舞っている小さな光の粒は俺を見ていた
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・、もういいよ、ありがとね」
そう言っている
光の粉の切ない心が伝わってくる・・・クロは
「俺さぁ諦め悪いんだよねー」
そう言ってまた割り出した。
ガンガンガン!!!
それから数時間後
もう爪は一本しか残っていない、
血も爪の間から滲み出て痛くて逃げたくて
でも、どうしても割ってやりたい気持ちが大きくて
・・・その時に
大きくヒビが出来た所から
バリン!
と、大きな音と共に小瓶は割れた
割れた小瓶の光の粒が土の中へ染みわたっていく・・・
「爪・・・ごめんなさい、本当に、本当にありがとう・・・」
そんな光の粒の声が聞こえた。そして
光の粒は土に染みわたり朝日と共に、咲けなかった花壇の花の蕾を次々と咲かせていった
クロは一本だけ残った爪を見て
「一本ありゃぁ十分・・・」そう呟いて穴の奥に進んでいった。
その日の朝
二階のレンガの家に住む女性が窓を開けて花壇を見ると
綺麗に咲いている花壇の花を見て驚いた。「今までどうしても咲かなかったのに・・・どうして?」
花は咲けた事を、嬉しそうに・・・笑ったように・・・女性に微笑みかけるように
朝露をまといながら風に揺れていた。
幸せそうな花と
花を見て涙ぐみながらも微笑む女性を見てクロは
「ったく・・・」そう言って少し笑うと
助けるって気持ちいいもんなんだな・・・そう思いながら
一本の爪で穴を掘っていく
それはそれは誇らしげに
エピローグ
私の夫は早くに亡くなった
倒れていた夫の手の中に数粒の不思議な種が握られていた
光っているような気がするその種は何故か「私を咲かせて」と、言っているように聞こえた
だから花壇を作って種を植え育ててみる事にした
芽が出て蕾が咲こうとすると、何故か蕾のまま散っていった
「どうして?どうして咲かないの?」そんな言葉が出てくる
花達は咲こうと頑張ってるような気がした
けど、咲く前に散ってしまう・・・そんな事が続いた
そんなある日の朝
窓を開けると
「愛してるよ」
そんな旦那の声が・・・聞こえた気がしたの
そして朝日が眩しい窓の外の花壇を見ると綺麗に咲いている花達が見えた
びっくりして走って花壇を見にいく私
花達は「やっと伝えられた・・・」そう言っている気がした
花を見て何故か涙が出てくる
どうしてだろう?
夫の顔が思い浮かぶのは・・・
今まで思い出せなかった事が
記憶が
想い出が
思い浮かぶのは・・・どうして?
「ありがとう」
私は自然と言葉が出てしまった。
誰に言っているのか自分でも分からぬまま
心からの感謝が
涙を伝って声に出て
そして
咲かせてくれた誰かの元に
「ありがとう」の気持ちが届きますように
fin
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