【社畜】ご利益より、残業代をください~保母さん編~

    ※フィクションです(実在の団体・人物とは関係ありません) 

    目次

    子供好きなのに働きたくなくなる理由

    結論から言うと、私は保母さんを辞めてよかったです。
    「えらいね」「若いんだから」で押し付けられる役割は、優しさじゃなくて搾取でした。

    昔の夢と今の職場

    今の私は、ごく普通のOLだ。
    不毛な会議で頷きマシーンと化し、無感情にメールを返し、定時になればPCを閉じる。もちろん、すんなり帰れない日もある。

    でも

    ――あの「神域という名のブラック企業」に比べたら、今の環境なんて天国だ。控えめに言って、全部が“まとも”に思える。

    それでも、不意にフラッシュバックする時がある。
    駅のホームで突風が吹いた瞬間。アスファルトの上を枯れ葉がカサカサと踊るのを見た瞬間。
    あの、湿った土と線香が混ざったような、独特な境内の匂いが鼻の奥まで戻ってくる。

    「神様は、いつでもあなた方のことを見ておられますからねぇ」
    それが、恰幅の良い“責任者”の口癖だった。園のトップであり、敷地内の神社にも顔が利く

    ――いわばその土地の絶対権力者。

    園の裏手には立派な鳥居があって、私は毎朝そこをくぐって出勤していた。最初は「神様の隣で働けるなんて、守られてるみたいで素敵だな」なんて、お花畑なことを思っていた。

    ……過去の自分を小一時間問い詰めたい。守られていたんじゃない。監視下に置かれていただけだ。

    一応、園にも「定時」という概念は存在した。概念だけは。
    みんなは帰る。笑いながら、荷物を持って、当然の顔で。
    私だけが、帰れない。

    「先生、今日は“お願いね”」

    やさしい声、やさしい顔。断りづらい空気。


    「若い先生のほうがフットワーク軽いでしょ? 神様も若いパワーを喜ぶのよ」

    はい出た。

    伝家の宝刀「若いんだから」圧。


    こうして園の業務が終わったあと、私の過酷な“第二部”が幕を開ける。

    渡されるのは、タイムカードではなく私の背丈ほどの竹ぼうきだった。

    園児の声が消え、夕闇が迫る境内で、一人、落ち葉を掃く。

    「これは尊い“ご奉仕”だから」
    「神様に失礼のないようにね」
    「神様は、ちゃんと見ているからね」

    ……見ているなら、私の真っ白なタイムカードの空白も見てほしかった。

    そしてできれば、偉いところに報告してほしかった。すごく切実に。

    夕方の境内は、静かすぎて怖い。風がヒュッと吹くたびに、せっかく集めた枯れ葉の山が無情にも散っていく。

    賽の河原かここは。

    「……第二部、開幕」

    誰にも届かない呟きを落として、私はまた葉を集める。

    体力メーターは削れていくのに、給料メーターだけはピクリとも動かない完全固定制だ。

    ある日、残っていた子どもに言われた。

    「せんせい、きょうも かみさまの おそうじ?」
    「……うん。そうだよ」
    「えらいねぇ。せんせい、すごい!」

    その無邪気な言葉が、胸の奥に深く刺さった。


    救いじゃない。喉の奥に引っかかる“棘入りの飴”みたいだった。

    “えらい”という言葉は、時として残酷だ。人を縛り、壊す呪いになる。


    えらいから、我慢する。えらいから、引き受ける。

    えらいから――断れない。

    決定打があった。
    残業代の話をした瞬間、あの人の笑顔だけが消えた。


    「そういうのは、考え方の問題よ」


    その一言で、私の中の何かがぷつりと切れた。

    結局、私は辞めた。


    私は「保育」がしたかったのであって、「無料雑用係」になりたかったわけじゃない。

    転職して、OLになった。最初は悔しかった。続けられなかった自分が情けなくて。
    でも今は、こう思う。

    私が、私を守った。
    それだけで十分だ。

    神様は、きっと定時では帰らない。
    でも私は――帰る。

    決定打(辞めた理由)

    残業代の話をした瞬間、空気が変わりました。
    笑顔が消えて、「考え方の問題」と一言。
    その瞬間、私は理解しました。ここでは私の時間も体力も、最初から“無料”扱いなんだって。

    “えらいね”が呪いになる

    残っていた子に言われました。
    「せんせい、えらいね。すごい!」
    その言葉がいちばん刺さった。

    えらいから我慢する。
    えらいから引き受ける。
    えらいから断れない。

    これ、優しさの皮を被った鎖です。

    今の私が伝えたいこと

    もしあなたが今、
    「若いんだから」「えらいね」で何かを背負わされているなら、いったん立ち止まってほしい。

    それは美徳じゃなくて、ただの都合かもしれない。

    あなたは、帰っていい。

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