これはnoteで書いた短編のもう一つの物語です。AIと一緒に書いています。

蛇は千年生きると、竜になるといいます。
僕は、その話を何度も聞いて育ちました。
古い木の根元で、年老いた蛇が言いました。
長く長く生きれば、いつか角が生え、髭が伸び、雲をまとって空へ昇るのだと。
その話を聞くたび、仲間たちは目を細めました。
いつか竜になれるなら、怖いものなど何もない。
鳥に追われることも、人間に石を投げられることもなくなる。
空を泳ぎ、雲の上から地上を見下ろせるのだと。
けれど僕は、竜になる自分をうまく想像できませんでした。
上を見れば、いつも空がありました。
青い日も、灰色の日も、夕焼けに燃える日も、空はずっと僕の上にありました。
風が吹くたび、草の葉が揺れ、そのすき間から光が落ちてきます。
僕はその光を見上げるのが好きでした。
けれど、地面を這う僕には、そこへ行くことができません。
僕には鱗があります。
土の上を進むための腹があります。
草の陰に隠れるための細い体があります。
小さな穴に身を滑り込ませることも、石の下で息をひそめることもできます。
でも、翼はありませんでした。
空を飛ぶ鳥の影が落ちるたび、僕は体を丸めて息をひそめました。
鳥は怖いものでした。
空から降りてきて、仲間をさらっていくものでした。
ある朝、草むらに一羽の鳥が舞い降りました。
僕たちはみんな、葉の下へ逃げました。
けれど、まだ小さかった蛇の一匹が、逃げ遅れました。
白い腹を見せて、必死に体をくねらせていました。
鳥のくちばしが光りました。
次の瞬間、その子は空へ連れていかれました。
僕は何もできませんでした。
地面に伏せたまま、ただ空を見上げていました。
怖い。
怖いはずなのに。
それでも僕は、鳥のいる空を見上げてしまうのです。
飛んでみたいと。
あの高い場所へ、一度でいいから行ってみたいと。
鳥がうらやましかったわけではありません。
鳥になりたかったのでもありません。
ただ、空に触れてみたかったのです。
地面から見上げるだけではなく、あの青の中に、自分も一度だけ身を置いてみたかったのです。
そんな僕にも、昔は仲間がいました。
同じ草むらに住んでいた蛇たち。
石の下で眠り、雨の日には木の根元に集まり、日なたでは体をあたためました。
朝露の残る草をかき分けて進み、夜には月の光を浴びながら、静かに眠りました。
僕は自分の鱗が好きでした。
黒くつやのある鱗です。
濡れた石のように光り、月の下では銀色にも見えました。
仲間のひとりが言いました。
「お前の鱗は、夜によく似ているな」
僕は少しだけ誇らしくなりました。
けれど、人間たちはそうは見ませんでした。
ある日、僕は小さな道の端に出てしまいました。
ただ日なたに出たかっただけでした。
けれど、僕を見つけた人間の子どもが叫びました。
「蛇だ!」
その声に、大人たちが集まってきました。
気持ち悪い。
こっちへ来るな。
石を投げろ。
誰かがそう言いました。
僕は必死に逃げました。
自慢だった鱗に、小さな石が当たりました。
痛みよりも、その言葉の方がずっと長く残りました。
気持ち悪い。
その日から僕は、自分の鱗を見るたびに、少しだけ胸の奥が冷たくなるようになりました。
仲間たちは、ひとり、またひとりと、いなくなりました。
鳥にさらわれたもの。
人間に追われたもの。
どこかへ逃げたまま、帰ってこなかったもの。
雨の夜に流されてしまったもの。
冬を越せなかったもの。
気づいたとき、僕はひとりぼっちでした。
僕はただの蛇でした。
竜にはなれませんでした。
鳥にもなれませんでした。
空に恋をしたまま、地面を這って生きていました。
千年生きれば竜になる。
その言葉だけが、遠い星のようにありました。
でも、僕は思いました。
千年なんて、あまりにも遠い。
僕はその前に、ひとりで死んでしまうのだろう。
誰にも知られず、草の陰で、ただ冷たくなっていくのだろう。
そんなある日、僕は自分の鱗の色が少しずつ変わっていることに気づきました。
自慢だった鱗から、色が抜けていくのです。
土の色でもなく、草の色でもなく、夜の影でもない。
黒から灰色へ。
灰色から白へ。
最初は、病気なのだと思いました。
次に、老いたのだと思いました。
そして最後に、僕はもう、夜に隠れることすらできなくなったのだと思いました。
白い体は、草むらの中でよく目立ちました。
月の光を浴びると、まるでこの世から浮いてしまうようでした。
僕は怖くなりました。
こんな姿を人間に見られたら、きっと気味悪がられる。
石を投げられる。
追い払われる。
黒い鱗だったころでさえ、僕は嫌われました。
それなのに、こんな白い姿になってしまったら、いったい何と言われるのでしょう。
僕は祠のそばの石陰に身を縮めました。
そこは古い祠でした。
赤い布のかかった小さな祠で、誰かが時々、米や花を供えていきました。
僕はそのそばで、息をひそめるように生きていました。
空は相変わらず、僕の上にありました。
手の届かない場所で、何も知らないように青く広がっていました。
ある日の夕方でした。
僕は祠の影から、少しだけ体を出しました。
そのとき、人間の足音が聞こえました。
逃げなければ。
そう思ったのに、体が動きませんでした。
白い体が、夕暮れの光にさらされていました。
見つかった。
僕は目を閉じました。
悲鳴が聞こえると思いました。
石が飛んでくると思いました。
けれど、その人は僕を見ると、悲鳴をあげませんでした。
石も投げませんでした。
ただ、静かに息をのみました。
そして、膝をついたのです。
「白蛇さまだ」
その声は、震えていました。
怖がっている震えではありませんでした。
その人は僕に向かって、そっと手を合わせました。
「神様の使いだ」
僕は、何を言われているのか分かりませんでした。
僕はただの蛇です。
地面を這うことしかできない、弱い蛇です。
鳥に怯え、人間に嫌われ、仲間を失い、自慢の鱗の色さえなくした蛇です。
それなのに、その人は僕を見て、祈ったのです。
その人は小さな声で何かを願いました。
家族のことかもしれません。
病のことかもしれません。
誰かの無事かもしれません。
僕には、その願いの意味は分かりませんでした。
けれど、その願いが、僕の背中にそっと触れた気がしました。
そのとき、僕は翼をもらったのだと思います。
誰のものでもない、僕だけの翼を。
でも、まだ飛べません。
だから、片翼だけ。
空へ行くには足りない翼です。
鳥になるには、あまりにも小さな翼です。
竜になるには、あまりにも頼りない翼です。
それでも僕は思うのです。
この翼は、僕が空へ逃げるためのものではなかったのかもしれません。
誰かの願いを、見えない空へ届けるための翼だったのかもしれません。
見えないけれど。
飛べないけれど。
白くなった僕の背には、たしかに翼があったのです。
忌み嫌われていた僕は、いつの間にか、誰かの神様になっていたのです。
それから、時々人が祠へ来るようになりました。
僕の姿を探す人もいました。
手を合わせる人もいました。
願いを置いていく人もいました。
僕はそのたびに、石陰からそっと空を見上げました。
千年生きれば、竜になるといいます。
僕が本当に竜になれるのかは分かりません。
空を飛べる日が来るのかも分かりません。
けれど、今はもう、飛べないことだけを悲しいとは思いません。
僕は今日も、地面を這いながら空を見上げます。
飛べないまま。
それでも、誰かの願いを背負って。
